薬機法とは
薬機法とは、医薬品等の製造から販売に至るまでのさまざまなルールを定めた法律のことです。正式には「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」といい、「薬機法」のほか「医薬品医療機器等法」と呼ばれることもあります。
薬機法における「医薬品等」とは、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品のことであり、これらを広告する場合には、企業・個人問わずすべての人が薬機法を遵守する必要があります。
薬機法の広告規制の対象
薬機法では、以下の3つの要件を満たすものを「広告」であると定義しています。
- 顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること
- 特定医薬品等の商品名が明らかにされていること
- 一般人が認知できる状態であること
つまり、テレビCMや新聞・雑誌、ちらしやパンフレットはもちろん、ウェブサイトやSNS、個人のブログなどであっても、商品名が明らかになっており、消費者の購買意欲を促進させるコンテンツであれば、すべてが薬機法の対象となるのです。
また、商品名の一部を隠したり、商品詳細を別ページに掲載したりしている場合も、商品が特定できる状態であれば、広告とみなされます。インフルエンサーなどを利用したPR投稿も同様です。
薬機法の広告禁止事項
薬機法の広告規制の要点は、以下の3点です。
一つ目は、「虚偽・誇大広告等の禁止」です。薬機法第六十六条には「何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない」と明記されており、実際以上の効能効果や性能があると誤解させる表現を厳しく禁止しています。また、同じく六十六条では「医師等が保証したと誤解を与えるおそれのある記事の広告・記述・流布の禁止」「堕胎暗示、わいせつ文書・図画の使用禁止」も禁止されています。
二つ目は、「特定疾病用医薬品の広告の制限」です。医薬品や再生医療等製品を適正に使用するためには高度な専門性が要求されるため、特定疾病に関しては医薬関係者以外への広告が禁止されています。ここでいう特定疾病とは、がん、肉腫及び白血病です。
三つめは、「承認前医薬品等の広告の禁止」です。承認、または認証前の医薬品・医療機器に関しては、名称・製造方法・効能・効果・性能を広告することができません。
加えて、広告環境の変化に伴い「医薬品等適正広告基準の改正について」という通知が厚生労働省医薬・生活衛生局より発出されています。この「医薬品等適正広告基準」は医薬品等の広告の適正を図るための基準です。「他社製品のひぼう広告の制限」「医薬関係者等の推せん表現の禁止」など、薬機法の広告禁止事項をより具体的に示しています。
「医薬品等適正広告基準」では、このほかにも「医薬部外品の効能・効果の範囲」や「薬用化粧品の効能・効果の範囲」などについて、記載できる表現が具体的に明示されています。
薬機法に違反した際の罰則
薬機法に違反した場合、措置命令等の行政処分や課徴金納付命令、刑事罰を受ける可能性があります。
課徴金納付命令は、2021年の改正により加えられた制度であり、第六十六条第一項(虚偽・誇大広告の禁止)に違反する行為をした人が対象です。金額は「課徴金対象期間に取引をした課徴金対象商品の売上合計額×4.5%」となっています。
また、第六十六条第一項(虚偽・誇大広告の禁止)、第六十六条第三項(堕胎の暗示やわいせつ文の禁止)、第六十八条(未承認医薬品等の広告の禁止)などに違反し刑事罰を受けた場合、二年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはその両方が課されます。
薬機法違反になる広告表現事例
では、実際にはどのような広告が薬機法違反となるのでしょうか。薬機法違反となる広告表現を具体的に紹介します。
効能効果を確約する表現
「必ず良くなる」「病気が治る」といった、効能効果を確約する表現は薬機法違反となります。これは、承認・未承認を問わずに適用されるルールです。「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について」では具体例として、「胃弱、胃酸過多等の適応症をあげ、それが「根治」、「全快する」等の表現」が禁止事項に挙げられています。
そのほか、下記のワードは使用自体が効能効果の確約と見なされ薬機法違反となる可能性があるため、使用を控えましょう。
- 治る
- 効果がある
- 改善する
- 治癒する
効能効果を強調する表現
効能効果や安全性、使用感などを実際以上に誇張する表現は薬機法違反です。例えば「最高の効き目」「強力な○○作用」「○○界のエース」といった表現は、最大級表現やそれに類する表現となり禁止されています。
また、「すぐれたききめ」「よくききます」という表現に関しては、キャッチフレーズとして使用したり、ほかの文字よりも大きく表現したりすることが認められていません。「すぐ効く」「飲めばききめが3日は続く」等の表現も同様に禁止です。
ただし、「解熱鎮痛消炎剤」「局所麻酔剤を含有する歯痛剤(外用)」「抗ヒスタミン薬を含有する鎮痒消炎薬(外用)」及び「浣腸薬」等の場合、「強調しない」「剤型等の比較をしない」「使用前・使用後的表現(明確な使用経験表現とはとらえられないもの)の中で作用時間を明示又は暗示するものではない」といった条件を守れば、即効性に関する表現をしてもいいことになっています。
承認範囲外の効能効果を謳う表現
医薬品等の効能効果は、承認された範囲のみ広告可能です。そのため、効能効果が承認されていない医薬品や化粧品、健康食品などでは、効能効果を謳うことや効能効果と誤認される表現を広告することが禁止されています。
安全であることを確約する表現
効能効果を確約することが禁止とされているように、安全性に関しても確約や保証表現をすることができません。「安全性は確認済み」「副作用の心配はない」等の表現は薬機法違反となります。
体験談や口コミを用いた表現
薬機法では、使用者の体験談や口コミを使用した広告も禁止されています。これは、消費者に対し、効能効果や安全性に関する誤解を与える可能性があるためです。
ただし「目薬、外皮用剤及び化粧品等の広告で使用感を説明する場合」と「タレントが単に製品の説明や呈示を行う場合」は、過度な表現や保証的な表現とならないように気を付ければ広告が可能です。
効能効果を保証するようなイラスト・写真・図
効能効果を保証するような表現は、文章だけでなく、イラストや写真、図においても薬機法違反となります。また、臨床データや実験例等を例示することに関しても、消費者に誤解を与える可能性があることから原則として禁止されています。
医薬関係者等が推薦している表現
医薬関係者等が商品を推薦しているような表現は、薬機法で禁止されています。ここでいう「医薬関係者等」とは、医薬関係者、理容師、美容師、病院、診療所、薬局、その他医薬品等の効能効果等に関し、世人の認識に相当の影響を与える公務所、学校又は学会を含む団体のことです。
これらの人々からの推薦は、たとえ事実であったとしても一般消費者への影響が大きいことが、禁止されている理由です。
医薬品・医療機器の研究・製造に関する違反表現
薬機法では、「医薬品等の製造方法について実際の製造方法と異なる表現又はその優秀性について事実に反する認識を得させるおそれのある表現をしてはならない。」と定められています。
そのため、例えば「最高の技術」「最先端の製造方法」「家伝の秘法により…」といった製造方法に関する最高級表現はできません。また、研究方法や研究内容に関しても、誇大表現や誤認を与える表現を用いず、事実を正しく強調せずに述べることが求められています。
薬機法以外の注意すべき法令
医薬品等を広告する場合には、薬機法以外にも頭に入れておくべき法令があります。その代表格となるのが、不当景品類及び不当表示防止法(景表法)と医療広告ガイドラインです。
不当景品類及び不当表示防止法(景表法)
不当景品類及び不当表示防止法(景表法)は、消費者が商品やサービスを合理的に選択できるよう定められた法律です。消費者が不利益を被らないよう、「不当な表示の禁止」と「景品類の制限及び禁止」に関するルールが定められています。
医薬品等の広告を担当している方の場合、特に気を付けるべきは第五条に記載されている、優良誤認表示と有利誤認表示です。優良誤認表示とは商品やサービスが実際よりも優良であると誤認させること、有利誤認表示とは商品やサービスが類似商品や類似サービスよりも有利(お得である)であると誤認させることです。
景表法に違反した場合には、措置命令や課徴金納付命令を受けることになります。
医療広告ガイドライン
医療広告ガイドラインは、医療機関のウェブサイト等を対象とした規制が定められているガイドラインです。薬機法をはじめとした法令を指針に、比較優良広告や誇大広告、公序良俗に反する内容の広告、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前後の写真等の広告が禁止されています。
医療従事者や医療機関のウェブサイト作成を担当する方は、直接的に医薬品や医療機器を販売する立場ではなかったとしても、広告において医薬品等を用いる場合には、一般人が適切な受診機会を喪失したり、不適切な医療を受けるおそれを避けられるよう、これらのルールを遵守する必要があります。
医療広告ガイドラインに違反した場合、行政指導や立入検査、中止または是正命令が行われます。それらの指導・命令に応じない場合には、6月以下の懲役又は 30 万円以下の罰金もしくは、20 万円以下の罰金が課されます。
薬機法違反を防ぐ広告制作のポイント
薬機法をはじめとした法令を遵守し、消費者の信頼を損なわないためには、違反を防ぐための体制作りが大切です。
過剰表現・確約表現を避け、事実に基づいた表現をする
まずは、広告制作に携わるすべての人が、過剰表現を避けて事実に基づいた表現のみをするように心がけましょう。効能効果や性能に関して記載できるのは承認された範囲のみのため、医薬品や医療機器の添付文書を確認することも徹底してください。また、承認範囲内だとしても、効能効果や安全性を確約するような表現は避けましょう。
薬機法に関する情報収集を定期的に行う
薬機法は定期的に改正されていますので、常に情報収集を行い、必要な情報を取りこぼさないようにしましょう。そういった情報を発信しているSNSをフォローしておくのもおすすめです。また、広告担当者は法令や通知を一通り確認しておきましょう。
チェックツールの使用や専門業者への依頼を検討する
薬機法に違反するリスクを避けるためには、薬機法に関する正しい知識の習得と厳しいチェック体制が必要です。社内で構築が難しい場合には、薬機法チェックツールや専門業者への依頼を検討しましょう。機械良文や広告チェックAI、セルフ薬機法チェックなどは、無料で使用することができます。
まとめ
薬機法違反は、行政処分や刑事罰を受ける可能性があるだけでなく、社会的な信用を損なうリスクもあります。薬機法に関する正しい知識を習得し、違反を防ぐ社内体制を築くことで、広告制作を堅実に進めていきましょう。