気候変動による地球温暖化の対策として、世界中で広告のルールが厳しくなってきています。特にヨーロッパでは、石油やガソリンを使う製品の広告を禁止する動きが広がっており、2024年6月には国連トップのグテーレス事務総長も「このような広告はやめるべきだ」と、世界各国に呼びかけました。
この記事では、気候変動が広告に与えている影響や世界の動きから、環境にやさしいと謳ったとしても「グリーンウォッシュ広告」になってはダメという観点まで、お伝えします。
環境への配慮が企業価値を左右する時代となった今、広告戦略もまた大きな転換点を迎えています。これからの時代に求められる広告とはどのようなものなのか、一緒に考えていきましょう。
気候変動に広告が与える影響とは?
広告は、消費者の購買行動に直接的な影響を与える強力なコミュニケーションツールとなります。特に環境に負担の大きい商品やサービスの広告は、結果として気候変動を加速させる可能性があると指摘され、世界各国で規制の動きが見られるようになってきました。
この状況は、かつてのたばこのテレビCMの規制と似ています。「習慣的な喫煙は病気の原因になる」ことや、「喫煙が公共マナーや火災などに悪影響を及ぼす」といったことが広く知れ渡り、たばこに対する社会的な考え方に変化が起こった影響で、1998年ごろからテレビでのたばこCMは、日本たばこ産業によって自主規制されるようになりました。
2005年に日本は、WHOの「たばこ規制枠組条約」を締結し、たばこ規制枠組条約(FCTC)第11条に基づいて、たばこ製品の包装やラベルの表現も規制されています。(※1)
たばこ広告におけるこれまでの変遷を考えると、気候変動も広告に大きな影響を及ぼすことは、逃れられない事実となっていくと考えられるのではないでしょうか。
国連の事務総長が「化石燃料企業の広告を禁止すべき」と明言
2024年6月には、国連トップのグテーレス事務総長が、地球温暖化対策として、化石燃料会社の広告の掲載を禁止するよう、世界各国に呼びかけました。会見の中では、石油や石炭・ガスといった企業を「気候カオスのゴッドファーザー」と総称し、長年にわたって環境問題の真実を隠してきたと強く批判しています。(※2)
この呼びかけの背景には、深刻な気温上昇の問題があります。EUの気象情報機関であるコペルニクス気候変動サービスからは、2023年6月から2024年5月まで、毎月にわたり月間の平均気温が上がり最高を更新し続けている、さらに2024年は、世界の平均気温が1.5℃以上の上昇になる見込みで過去最高になる見通しだと発表がありました。
グテーレス事務総長は会見の中で、このまま地球温暖化が進むと私たちの暮らしにも大きな影響が出る可能性だけでなく、気候変動の問題においては人間自体を「巨大な隕石だ」と例え、恐竜が隕石によって絶滅した話になぞらえて「気候変動による気温の上昇への早急な対策が必要」だと述べています。
(※2)参考:BBC News Japan「化石燃料業界が気候カオスのゴッドファーザー=国連事務総長」
日本でも「グリーン購入」を推進する動きがある
日本では、環境にやさしい商品を選んで購入する「グリーン購入」の動きが、より一層の広がりを見せています。2000年の時点ではすでに「グリーン購入法」という法律ができ、国や地方自治体が率先して環境に配慮した商品を購入する仕組みが作られました。環境省は、商品の環境への配慮について、消費者に分かりやすく正しく伝えるためのガイドラインを作成しました。(※3)
多くの企業がこれに基づいて、商品のパッケージに環境マークをつけたり、環境への取り組みを広告で伝えたりしています。
近年では、価格や品質だけでなく環境への配慮も、商品を選ぶ大切な基準になってきています。さらに、昨今の気候変動の動きも相まって、企業も環境に配慮した商品開発や、それを伝える広告づくりに力を入れていく必要が出てきているのです。
(※3)参考:環境省「グリーン購入法|国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」
“グリーンウォッシュ広告”になってしまってもダメ
環境に配慮した内容を広告の全面に盛り込むようになった結果、実際よりも環境への取り組みを大げさに見せかける「グリーンウォッシュ」という問題が起きています。
例えば、商品の一部分だけが環境に配慮されているのに、商品全体が環境にやさしいかのように見せかけたり、都合の悪い環境への影響を隠したりする広告などが該当し、環境への取り組みを過度に強調してほかの環境負荷を隠蔽するような広告などです。
グリーンウォッシュは、発覚した際の企業価値やブランドイメージへのダメージが極めて大きく、一度失った消費者からの信頼を取り戻すことは容易ではありません。
実際、欧州では既にグリーンウォッシュに対する規制が強化されており、環境配慮を訴求する際には具体的なデータや証拠の開示が求められています。日本においても、消費者庁や環境省がグリーンウォッシュ防止のためのガイドラインを整備し、適切な環境表示の在り方について指針を示しています。
そのことからも、環境に関する広告は、具体的な数字や証拠に基づいて、事実を正しく伝えることが大切だといえるでしょう。
気候変動時代の広告規制を取り巻く世界の動向
気候変動がきっかけとなった広告規制は、世界中で動きを見せています。ここでは、次の3つの気候変動による広告規制の事例をご紹介します。
- 【オランダ】都市ハーグでは化石燃料に関する広告を禁止した
- 【フランス】データ開示しないとカーボンニュートラルは謳えない
- 【アメリカ】カリフォルニア州が石油関連5社に利益の放棄を求めた
どのような規制が行われたのか、詳しく見ていきましょう。
【オランダ】都市ハーグでは化石燃料に関する広告を禁止した
オランダのハーグ市では、世界で初めて、石油やガソリンを使う製品の広告を法律で禁止することを決めました。2025年1月からは、ガソリン車や飛行機、クルーズ船などの広告が街から姿を消すことになります。
この決定には「ガソリンを使う製品の広告が増えると、それらの製品の使用が当たり前になり、環境を守る取り組みの効果が弱まってしまう。」との専門家の指摘が背景にあります。
また、ハーグ市は以前から化石燃料関連の広告規制を試みていましたが、規制に従わない事業者がいたために、より強力な法的規制が検討されていました。約1年にわたる議論の末、今回の法律制定に踏み切ったとのことです。
(参考:ELEMINIST(エレミニスト)「オランダのハーグ、化石燃料に関する広告を禁止 世界初の都市に 」)
【フランス】データ開示しないとカーボンニュートラルは謳えない
フランスでは2023年1月から「カーボンニュートラル」という言葉を広告で使うための、新しい規制が始まりました。カーボンニュートラルとは、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を実質的にゼロにすることです。
企業が「私たちはカーボンニュートラルです」と広告で言うためには、商品が作られてから使われるまでの過程で、どれくらい二酸化炭素を出しているのか、どのように減らすのか、といった具体的な数値データに基づいた情報開示が求められ、その精度と信頼性が厳しく審査されます。また、この情報は毎年更新する必要があります。
この規制は、企業が環境への取り組みを正直に伝え、消費者がカーボンニュートラル表示による誤った認識をしてしまうことを防ぎ、本当に環境のことを考えて活動している企業の応援が目的です。
(参考:EnviX「フランス AGEC法、気候変動対策・レジリエンス法 重要施行令」 )
【アメリカ】カリフォルニア州が石油関連5社に利益の放棄を求めた
アメリカのカリフォルニア州では、大手石油企業5社と業界団体に対し、広告などの利益の放棄を求めて法的措置を取る事例が発生しました。1960年代から石油の使用が地球温暖化につながることを知りながら、その情報を消費者に隠していたという理由です。
「不正競争や虚偽広告などの違法行為で企業が得た利益を請求できる」という、カリフォルニア州で施行された新たな州法が、訴えの背景になっています。消費者の誤解を招く宣伝を行っていたとして、不正な広告などで得た利益を取り戻し、消費者への賠償に充てる計画です。
この裁判は、企業は環境問題について正直に情報を公開する責任があるということを示す、重要な出来事として注目されています。
(参考:ロイター「米加州、石油5社・団体の利益放棄を要求 気候変動巡り」 )
気候変動の時代、企業に求められる「広告のあり方」とは
地球温暖化対策が世界的な課題となる中、企業の広告も大きく変わってきています。実際、私たちにいただく広告制作のご依頼でも「環境に配慮した広告を制作したい」というお話が増えている実感があります。
過去に、水素エンジンを動力としている製品の広告を手がけた経験があります。水素エンジンは、二酸化炭素を出さず排出されるのは水だけという、とても環境にやさしい技術です。この素晴らしい特徴を、消費者の皆さまに分かりやすく伝えてほしいというご要望をいただきました。
私たちは「環境にやさしい」という言葉だけに頼るのではなく、製品がどう環境に配慮されているのか、具体的に分かりやすく消費者に訴求する広告を提案しました。
気候変動という時代の流れに添いつつ、科学的な根拠に基づいた誠実な広告づくりが、いま企業に求められる「広告のあり方」なのではないかと、感じています。
GYMは今の時代に適した広告戦略を一緒になって考えご提案します。
これまでご紹介してきたように、世界中で環境に関する広告のルールが厳しくなっています。「環境にやさしい」という言葉だけでは、もう十分ではない時代です。気候変動時代の広告には、具体的な数字や証拠を示しながら、環境への取り組みを正直に伝えることが求められています。
私たち、デザイン会社である株式会社GYMは、最新の広告規制への対応、そしてこれまでの広告制作の実績を活かし、お客様の環境への取り組みを効果的に伝えるお手伝いをいたします。
製品やサービスにある、それぞれ独自の価値や特徴を正確に理解するところから初め、消費者の皆さまに伝わる広告を、お客様と一緒に作り上げていきます。今の時代に適した広告戦略についてのお悩みは、ぜひお気軽にGYMまでご相談ください。